「総合的な学習の時間を廃止しよう!」と言いながらも、定められているからには遂行せねばならない。で、やるからにはそれなりに真面目に取り組むのだ。ああ、エラい。
勤務先の高校3年では、担任団11名がそれぞれ講座を設定した。約240名の生徒達は、それぞれ希望する講座を選び、受講した。
私が設定したのは「健康グッズを科学的に検証する」という講座である。第1希望者は33名だったから、まあまあの人気だったと言えよう。
「鰯の頭も信心から」ということわざは知っていますか?「遠赤外線」「ゲルマニウム」「弱アルカリ性」「(水溶性)チタン」「ナノクラスター(水)」「ナノコロイド」「バナジウム」「マイナスイオン」(50音順)などなど...。健康に関わるような製品は、かなり高価なものも多いですが、本当に効果があるのでしょうか?今後、無駄なお金を使わないためにも、文献やインターネットなどを用いて、一緒に調べてみましょう。
33名は、上の「講座紹介文」を見て希望してきた。まあ、「あの教員ならヌルかろう」という見込みがあったのかも知れない。
生徒達に数名のグループを作ってもらった。それぞれのグループが調査した商品等は、以下の通りだった。(50音順)
おっきくなぁれ
ぐーぴたっ
ゲルマニウム
スリムウォーク
ヒアルロン酸
マイナスイオン
リンパマッサージ
ロデオボーイ
調査結果のプレゼンテーションは先週行った。最優秀グループが、来週の学年全体会で発表を行う。
結果的に、最優秀となったのは「リンパマッサージ」であった。芸達者な生徒が教室の前でマッサージを実演したら、相互評価でぶっちぎりの高得点を獲得したためだ。なお、リンパマッサージの効用については、私は意見を保留する。
生徒達のプレゼンテーションには、「科学的な知識が浅いため、商品説明や文献、ネット上の文書をただ棒読みする」だけのものが多かった。例えば「ゲルマニウム推進派と思われるヒトの文書」などの「ツッコミどころ満載」のものもあったが、生徒間ではそれなりの評価だった(第2位)のがビビッた。ま、発表の内容だけで評価したわけではないから、ある程度は仕方ない。
昨日は講座の最終回ということで、「通信販売に騙されないために」という演示実験と講義を行った。扱った内容は以下の通りである。
・気体の捕集法(上方置換、下方置換、水上置換)
・酸素 O2 の発生
・硫黄 S の燃焼
・亜硫酸イオン SO32- の還元力(還元性)
過酸化水素の分解による酸素の発生
<反応式> 2 H2O2 → 2 H2O + O2 ( MnO2 は触媒)
硫黄の燃焼
<反応式> S + O2 → SO2
亜硫酸イオンの生成
<イオン反応式> SO2 + H2O → 2 H+ + SO32-
亜硫酸イオンの還元性(亜硫酸イオン自身は酸化される、すなわち電子 e- を放出)
<イオン反応式> SO32- + H2O → 2 H+ + SO42- + 2 e-
ヨウ素の還元(亜硫酸イオンから生じた電子がヨウ素に作用する)
<イオン反応式> I2(褐色) + 2 e- → 2 I-(無色)
行った実験は、それでもアナタは「あの洗剤」を買いますか? そのものである。
無色である亜硫酸イオン入りの水少量を、薄めたヨウ素液(ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液)に垂らすのである。すると、ヨウ素がヨウ化物イオンに変化し、褐色の液体は無色になってしまうのだ。かなり劇的に。
また、デンプン水溶液にヨウ素液を加えた青紫~黒の液体に、同じく亜硫酸イオンを加えると、やはり劇的に無色になる。
実際にこの実験を眼にした生徒は、かなり驚く。本当に黒い水が透明になってしまうから。
私は「通販には騙されないように」と言うと共に、「(理科を真面目に勉強して)実験を見慣れていれば、テレビの嘘も見抜くことができるのだ」とも伝えるのであった。
ついでだが、暗くした実験室において、酸素中で硫黄を燃やすのは非常に美しい。青く輝く炎は幻想的である。何度見ても飽きない。ネット上を軽く漁ったが、画像は発見できなかった。ま、写真ではあの美しさは伝わらないとも思うが。
一応、理科の先生向けに何点かコツを記しておく。
・発生させる酸素が2L(およそ集気瓶3本分)ならば、教材として売っている過酸化水素水は数mLで足りる。高濃度だと沸騰してしまうので、水で適宜薄めて使用する。
・水上置換をする際、集気瓶の中に少量の水を残しておく。二酸化硫黄を溶かし込むためである。
・硫黄を燃やす前に、スチールウールの燃焼も見せたい。
・二酸化硫黄が水に溶けると、集気瓶の中は陰圧になるため、適宜摺り合わせのフタを開ける。
2009/12/15追記
参考画像アップしました。
日独合作ペテンショー「イージークリーン ウォッシュパワー」