月曜日の選択化学Iの授業へ向けて、チョコチョコっと試薬を用意した。
アルコールとカルボン酸からエステルを作成する演示実験である。生徒にやらせても良いのだが、時間短縮のために、そして濃硫酸を用いるので安全のために、私がやってしまうことにした。
私はこの実験をやるたびに、都立小石川高校時代にお世話になった安楽貢先生を思い出す。私が一番好きだった先生である。
異様に舌っ足らず?な先生で「皆さん」ってコトバが「みなしゃん」になったりするのでしゅ。って、書いてましゅが、私が教わった時は定年近かったのじゃないかと勝手に思ってる。
NHK学校放送の化学講座にも出演なさったことがあったそうなのだ。なお、安楽先生の姿は現在の職場で、ビデオ映像として拝見したことがある。私の職場の理科の先生が、出張か何かだったのだ。代理で授業監督に行ったトキ、生徒に見せるビデオの中に安楽先生がいらっしゃった。例によって舌っ足らずだった。
私が高校生の時は、ひたすら実験をやらせてもらったので、NHKのテレビ番組などを見る閑は無かった。ほとんど毎時間、化学の授業は実験であったような記憶がある。その当時は「実験大変だし、レポートは一応作成するものの、意味がイマイチ分からないしなぁ…」って思っていたのだ。
しかし、高校3年となって改めて受験勉強を進めるにつれ「そうか、あの実験にはそういう意味があったのか」って思うことが多かった。やはり、実験を「やらない」よりは「やる」ほうが、圧倒的に記憶に残るのである。そして、受験勉強として化学(や物理)などを自分で勉強する際には、その「実験の記憶」が圧倒的な力に変わるのであった。
実験は重要だ。
で、あれから20年近く経過したのだが、エステルの実験をやる度、安楽しぇんしぇえに理不尽?に怒られた記憶がよみがえるのである。
エステルというのは、香料に使われる物質である。ってか、天然の香料にはエステルが含まれることが多い。大して良い香りでない「アルコール」と「カルボン酸」を脱水縮合(エステル化)させると、果物っぽい香りや花っぽい香りの「エステル」に変化するのである。
高校3年生の時だった。安楽しぇんしぇえが授業中に「これは何の香りだ?」って質問とともに、エステルを私達「昭和63年度高校3年生 安楽の化学選択者」の生徒に与えた。
与えられた物質、確かに甘いような香りがするものの、これといって「果実名」や「花の名前」が思い浮かぶような代物ではなかった。そのため、私は「んー(何と表現すればよいのだろう)」って感じの反応を続けていた。すると、安楽先生は珍しくキレかけ「これはバナナだろう!」「これはパイナップルだ!」みたいに、断言なさった。
珍しく安楽先生がキレかけたってコトで、また、ちょっと釈然としなかったデキゴトだったため、私の中では妙に印象に残っているのでしたとさ。
なお、酢酸エチルってのは化学教育界?では「パイナップルの香り」であるともいわれる。厳密には「パイナップルの香り成分に含まれている」ってコトらしい。私は毎回思うのだが、酢酸エチルの臭いに一番近いのは駄菓子屋で売っているおもちゃのポリバルーンである希ガス。私が教えている生徒達も大体そういう反応をする。なにしろ、パイナップルの香りとは思えない希ガスる。