この書籍の主意
・日本国の長年の懸案である「学力低下」を、社会学的ではなく、自然科学として検証しました
・世界的には上位にあるらしい「日本人」の文章読解力はヤバいッス
・私は科学者なので、適当なことは言えません
・でもテストはやってます
・リーディングスキルテスト(RST)っていいます
・この日本の状況を、どうにかしたいです
・でも、解法はありません
・科学者だから、雑な表現はできません
・でもテストはやってます
図書館で予約していた本の順番が、やっと回ってきた。
なかなかズバッと言ってて面白いところから紹介。私も新井紀子氏の意見に同意する。
p.225~
どこかの学校でいじめなどの不祥事があるたびに、全国一斉に「アンケート調査をしろ」というようなお達しが下ります。調査調査の明け暮れです。中教審の委員の思いつきとしか思えない、プログラミング教育とかアクティブラーニングとかキャリア教育とか持続可能性社会教育とかを突っ込まれ、さらには小学生から英語教育。
p.234~
近年、大学でも高校でも「アクティブ・ラーニング」の重要性が頻りに強調されています。
(中略)
つまり、教えてもらうだけではなくて、自分でテーマを決めたり自分で調べたりして学習したり、グループで話しあったり議論したり、ボランティアや職業体験に参加したりというのがアクティブ・ラーニングだということです。
なんだかとても魅力的に聞こえます。でも、ちょっと待ってください。教科書に書いてあることが理解できない学生が、どのようにすれば自ら調べることができるのでしょうか。自分の考えを論理的に説明したり、相手の意見を正確に理解したり、推論したりできない学生が、どうすれば友人と議論することができるのでしょうか。「推論」や「イメージ同定」などの高度な読解力の問題の正答率が少なくとも7割ぐらいは超えないと、アクティブ・ラーニングは無理だろうと私は考えています。
p.239~
意味のあるアクティブ・ラーニングを実施できる中学校は、少なくとも公立には存在しません。高校でも、ごく限られた進学校だけです。
このような絵に描いた餅が学校現場に導入された責任は、文部科学省よりもその方針を決定した中央教育審議会、そしてその構成員である有識者にあります。私のような一介の数学者がRSTを発明するまで、なぜ「中高校生は教科書を読めているか」という事実を考えようとも、調べようともしなかったのでしょうか。なぜ、数十年前に卒業した中学校の記憶と、自分の半径5メートル以内にいる優秀な人たちの印象に基づいて、こんな「餅」の絵を描いてしまったのでしょうか。
教育は国家百年の計、とよく言われます。ならば、もっと科学的な設計が必要です。
"RST"とやらは、"リーディングスキルテスト"の略であり、それを執り行っているのは著者である新井紀子氏が代表である「一般社団法人 教育のための科学研究所」なる団体。
で、山本一郎氏が記していた文書は面白かった。図書館の順番待ちの間に見た。
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特に、この部分が記憶に残った。多分、それは正しい指摘なのだろう。
新井紀子せんせにはそういう読解力を引き上げるメソッドを開発する能力は恐らくお持ちではないでしょう
「テストをしたところで、何なのよ?」という問題はありますね。ま、その点を「どうにかしたい」という熱い思いも、新井先生はお持ちではあるようです。この書籍の末尾付近にありました。
本を読んでいて「ちーがーうーだーろー」と思ったところも紹介。
p.184~中学校の授業は、国語の難解な小説や評論文は別として、生徒は社会や理科の教科書の記述の意味は読めば理解できることを前提として進められています。そうでなければ授業は成り立ちません。そこを疑っている人は、少なくとも教育行政に携わる文科省の官僚の方々や、高等教育の在り方を審議する有名大学の学長や経済界の重鎮といった人にはいませんでした。けれども、私は、それまで誰も疑問を持っていなかった「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という前提に疑問を持ったのです。
疑問持つのが遅すぎ。
「並」の中高生を知らなさすぎ。
教科書なんて、偏差値60を超えないと、読めないものだ。でなければ、あれほど「予備校」が隆盛を極め、「参考書」がいつまでも出版され続けるわけがない。
近年はだいぶ、教科書も多様化してきましたけどね。出版社も大変だ。
p.204~次の文を読みなさい。
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。
セルロースは( )と形が違う
①デンプン ②アミラーゼ ③グルコース ④酵素
これは「係り受け」の問題とのこと。
理科をきちんと勉強し、有機高分子化学の基本を学んでいた方が、明らかに回答しやすいはず。そういう人物は、国公立大学進学者に多いのは確かだろう。そして、この文章の構造は明らかに複雑ではある。
教科書会社の執筆者は、単文を二つ並べるべきであったと言えましょう。
p.221~「御三家」と呼ばれるような超有名私立中高一貫校の教育方針は、教育改革をする上で何の参考にもならないという結論に達しました。理由が分かりますか? そのような学校では、12歳の段階で、公立進学校の高校3年生程度の読解能力値がある生徒を入試でふるいにかけています。実際にそのような中学の入試問題を見ればわかります。まさにRSTで要求するような文を正確に、しかも集中してすらすら読めなければ、スタート地点に立つことさえできないように作られているのです。そのような入試をパスできるような能力があれば、後の指導は楽です。高校2年まで部活に明け暮れて、赤点ぎりぎりでも、教科書や問題集を「読めば分かる」のですから、1年間受験勉強に勤しめば、旧帝大クラスに入学できてしまうのです。その学校の教育方針のせいで東大に入るのではなく、東大に入れる読解力が12歳の段階で身についているから東大に入れる可能性が他の生徒より圧倒的に高いのです。
当たり前だ。そもそも「教育」に「改革」が可能だと考えている時点で、お里(高知能または世間知らず、あるいはその両方を兼ねる「お花畑」出身)が知れるというものだ。
「そっち側」で良かったね。
以下は、私の素直な驚き。
p.232~ある中学校の3年生の生徒100人の身長を測り、その平均を計算すると163.5cmになりました。この結果から確実に正しいと言えるのは、次のうちどれでしょう。
①身長が163.5cmよりも高い生徒と低い生徒は、それぞれ50人ずついる。
②100人の生徒全員の身長をたすと、163.5cm×100=16350cmになる。
③身長を10cmごとに「130cm以上で140cm未満の生徒」「140cm以上で150cm未満の生徒」...というように区分けすると、「160cm以上で170cm未満の生徒」が最も多い。本章の最初にお話しした、「大学生数学基本調査」の問題の一つです。
正解は「②だけ」です。①は中央値の、③は最頻値の性質です。けれども、大学生の4人に1人は正しく答えられませんでした。公式は知っている、でも意味はわかっていないのです。
現在は、中学校の数学に出てくるのですねぇ。検索して知りました。私はこんな「自明なこと」が数学という「分野」に入ること自体を「疑問視」していました。
そういった意味では、私も新井紀子氏と同じく「ものを知らねぇヤツ」なのかも知れません。少し反省しました。
ま、とりあえず、私の意見・信条は「知識量こそ全て」ってコトなんですけどね。昔も今も。
全般的には誠実な内容だと思います。書名こそ扇情的だけど。
「頭が良い方(新井氏)」と「編集者」が協力して、可能な限り当たり障りの無いようにまとめ上げたのでしょう。
なお、こちらの記事を見たのは、数ヶ月前です。
ま、「暇?なお方」が「情熱」と「野心」を携えて授業を構築するならば、素敵な授業ができあがるのは当然でしょう。