書評『誰が学校を殺したか』

『誰が学校を殺したか』は、1992年9月10日に初版が発行されているらしい。最近手に取り、読んでみた。著者の夏木智氏は茨城県の公立高校教師であるそうだ。

この本は16年前の発行だが、その内容は現在も新鮮さを失っていない。いくつかの話題が扱われているが、特に、文部科学省が関わる「教員の資質向上」論の空虚さは、この20年近くずっと変わっていないということになるのだろう。

初版から何か所か引用する。

22ページ
もし本気でこの問題に取り組もうと思うものがいるなら、当然、まず、「望ましい教員の資質とは何か」という問題を議論するところから始めるにちがいない。(中略) そのことに関してはろくな議論もしないうちに、「どうすれば資質が向上するか」という具体的方策に関する議論にばかり熱中しているのだ。

40ページ
(初任者研修制度で)新規採用者を「指導」するのは、今の学校のあり方をつくってきた人々である。(中略) 彼らは人に指導できるくらいだから、今までもずっと教育にたずさわってきたにちがいない。とすると、彼らが教育にたずさわってきたこれまでというのは、きっとすばらしい教育ができていたにちがいない。なるほど、今までのすばらしい教育の水準を保つために、大金をかけて初任者研修制度を導入したというわけなのか。

44ページ
私が唖然とさせられたことがある。それは、多くの学校で初任者研修を実施するために新規採用者およびその指導教員が受け持つ授業時間数を減らし、そのぶんを大学を卒業したばかりの時間講師が穴埋めしているということだ!(中略) 新規採用者が立派な教師になるために研修を受けている間、時間講師に授業を担当される生徒はどうなるのだ。それとも授業など、誰でもできる重要性の低い仕事にすぎないとでも言いたいのか。そもそも、こうしたことをまったく気にとめる様子さえもない初任者研修制度とはいったい何だったのか。

現在、徐々に「教員免許更新制」のための講習というものが、その姿を見せてきている。
「押しつけられる研修の不毛さ」ということについて、既にこれだけ論点のはっきりした「現場からの論評」があったわけだ。にもかかわらず、官製研修はどんどん増えている。と、言っても私の勤務先は私学であり、噂を聞く限り、公立よりはマシであるようだ。
しかしまた、世の中の学校の大半は公立学校だ。他人事として傍観するのも忍びない。ので、日記に書いている私がいる。

私は「教員免許更新制」よりも「不適格教員の排除」をきちんと行うべきだと考えている。これは以前にも当サイト上で表明したことだ。

また、夏木氏は理路整然と「コネの重視によってもたらされる、教員の質の低下」について述べている。

36ページ
多くの論者は、今の教員採用試験が、教員志望者にペーパーテストを課し、その成績にもとづいて採用者を決めるというやり方を、「ペーパーテスト偏重で、テストではいい点を取れるが、人間味のない教員が採用される結果になっている」といった言い方で非難している。(中略) 実際の教員採用試験の方法が手直しされ、ペーパーテストの比重が下がり、たとえば「面接の重視」というようなことが実施されたとしよう。起こることは何か。一番、楽観的に考えて、面接官の好みにかなった人間の採用である。(中略) もし、教員を選ぶ側の主観だけにもとづいて選んでいいとすれば、間違いなく「コネ」が横行することになるだろう(中略) そうなれば、確かなことは、教員としての資質とはまったく別のところで教員の採用がなされるわけだから、結果としてむしろますます教員の資質が低下するということだ。

56ページ
不思議なことに、人々はこうした(コネという)問題にあまり関心がないように見える。教員の資質向上を論じながら、一方でこうした議論にあまり乗り気でないというのはどういうわけなのか、私には理解できない。もし教員の資質向上を本当に望むなら、この問題こそまっさきに論じなければならない問題ではあるまいか。

57ページ
コネを使ってでも教師になろうと思うのは、彼が提供できるサービスよりも多くの報酬を得られるからにほかならない。つまりコネで教師になった人が日曜日にも出勤するのは、彼がたとえそうしてもその給料に見合ったサービスを提供できないからにほかならないのである。コネを使って教師になる側にも選択の自由があることを忘れてはならない。コネによる採用は間違いなく資質を下げるのである。

文部科学省の官僚や、教員の生殺与奪の権を握る地方自治体教育行政の「お偉いさん」などは、この本を読むべきであろう。さらなる「殺し」を行い、結果として自分の首を絞めないために。
また、日本というクニを少しでもマシなものにしていくために。そう、若い頃の理想を思い出すのだ。


この本を読み、検索して知った。作者の夏木智氏は『誰が教育を殺したか?』という作品を一昨年に出しているようだ。そちらもいつか読んでみようと思う。
(2015/07/15 追記)読んだよ。

ここにあるのは2008年5月27日 20:31の日記です。

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