何かを分かち、ヒトは行く

『プリオン説はほんとうか?』(アマゾンの書評へ)は、2週間くらい前に読みました。記憶に残るよう、2度読んでみました。面白かったです。
著者は福岡伸一という方です。

なお、この本の存在は発売当初から知っていたのですが、購入する機会が無かったのです。新聞か何かの書評を見て「面白そうだなぁ」と思い、「購入予定の本リスト」にはずーっと置いてあったのです。しかし、他の本を読むのに忙しかったのです。
この本を買う少し前に『生物と無生物のあいだ』という本を入手しました。そいつが面白かったから『プリオン説はほんとうか?』を買ったのですね。

「吉野家の牛丼に「脊柱付近の肉」が混ざっているかも知れない」というニュースを受け、タイムリーな気がするので日記に書いてみます。


今回のニュースの中には「境界線」が複数存在しています。それをいくつか挙げてみます。
・アメリカ合衆国の食肉加工処理業者の「安全な会社」と「いい加減な会社」の境界線
・肉牛からできた食肉の「危険部位」と「非危険部位」の境界線
・肉牛の「健康な牛」と「BSE を発症している牛」の境界線
・「BSE の主犯」の領域に入る「プリオン」と、領域外にある(らしい)「未発見のウイルス様物質」

『プリオン説はほんとうか?』を読んだ私なので、上記4つの境界線について「境界は曖昧とならざるを得ないし、線引き自体が無意味かも知れない」と思うのです。


この本を読み、初めて知ったのですが、スクレイピー(羊の海綿状脳症)には、複数の「株」があることがかなり以前から知られていたそうです。また、「BSE に感染した牛の肉骨粉」を摂取したことによるスクレイピーである「sheep BSE」は、それら過去に存在したスクレイピーとも異なる症状・病変を示すそうです。
つまり「海綿状脳症の原因はウイルス様のナニモノカであり、そのために可変性を持つ」との解釈もあり得るとのこと。

第6刷の180ページあたりから引用します。

病原体が可変的である、言葉を換えていうならば、新しい宿主や環境を求めて進化しうるのであれば、(中略) 病畜の臓器や部位を安全部位と危険部位に分ける考え方にも、より一層の慎重さが求められよう。なぜなら、これまで安全とされていた部位でも、増殖可能な変異体が出現する可能性はいくらでもあるからだ。現に、牛では特定危険部位とされていない脾臓は、羊スクレイピー病ではもっとも感染性(病原性)の高い部位の一つであり、マウスやハムスターでも同様である(この病原体がリンパ組織を初期の増殖の場としていることから考えれば、主要なリンパ集積臓器である脾臓がターゲットとなるのは当然である)。WHO が勧告するとおり、病畜はその個体全体を廃棄・焼却処分して、再び食物連鎖に入り込まないようにすることが安全対策上重要なのである。

なお、この本の中では「BSE の病原体は熱に強い」というのは、言い過ぎ(あるいは虚構プラス伝説)である旨の記述もあります。詳しくは実際に本を読まれると良いでしょう。


この本を読み、牛肉に対する私の認識は以下のようになりました。
「なるべく安全そうな牛肉をしっかり加熱して食う」ならば、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病に罹ってしまうことは無いだろう、と。

で、当然のコトながら、私は好んで牛丼は食わないッスね。特に嗜好は変わっていませんケド。

今回のニュースを見聞きし、やはりヒトの営みすべては「線引き」でしかないと、改めて思ったのでした。


過去の関連する日記

ヒトの生きる理由
https://ariori.com/diary/2002/02/04/

ここにあるのは2008年4月25日 23:53の日記です。

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