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蒸留水および水道水-岩石系における元素の溶出

平成4年度卒業論文(平成13年に加筆修正)

 

1 はじめに

 現在、さまざまな種類の水が「ナチュラルミネラルウォーター」という名称で容器に詰めて売られている。そのパッケージには「六甲」や「大清水」などといった地名と共に、その水に含まれる元素やイオンが表示されている場合が少なくない。また、商品によっては「花崗岩質に磨かれた…」などといった文句が書かれていたり、採水地の地下構造のイラストが描かれているものもある。
 本研究では、密閉した容器内の水にさまざまな岩石を加えることによって、岩石が水にどの程度の影響を与えるかについて検証した。これまでに単一の岩石を様々なpHの下で溶解した実験は数多く行われているが、本研究では純粋な水および水道水を用いた。また2種類の岩石を混合し、水に溶解させる実験も行った。

2 方法

1)概要
 日本に比較的多く見られる5種類の岩石を粉末にし、蒸留水または水道水と混合する。これらの混合物(以下、試料と記す)における溶液(水)中の溶質を定量する。

2)使用した岩石(5種の岩石を鉄乳鉢で砕き、ふるいを用いて直径0.5mm以下の粉末とした。)
 花崗岩:茨城県真壁郡真壁町 加波山産花崗岩(稲田石)
 安山岩:静岡県沼津市 愛鷹山産安山岩
 凝灰岩:栃木県宇都宮市大谷町 大谷石
 石灰岩:埼玉県秩父市 飯盛山(武甲山)産石灰岩
 河原の岩石:東京都府中市 多摩川川原のもの(主に砂岩、希にチャートを含む)

3)使用した水
 蒸留水:業者から購入
 水道水:東京学芸大学自然館のもの

4)使用した容器
 PET(polyethylene terephthalate)ボトル
  (0.1mol/lのHCl水溶液を満たして3日間放置した後、蒸留水で3回洗浄した。)

5)試料の種類(計15試料)
  1種類の岩石200g+蒸留水500ml(静置)×5
  1種類の岩石200g+蒸留水500ml(断続的(実験開始後14・53・100日目)に攪拌)×5
  1種類の岩石200g+水道水500ml(静置)×5
  2種類の岩石100gずつ+蒸留水500ml(静置)×10

6)溶質の定量時期と方法
  K・Na・Ca・Mg(実験開始後14・53・100・150日目):原子吸光分光測光計を用いた
  Al・Fe・Cl・NO3・SO4・SiO2(150日間の実験終了後):Clイオンはデジタルタイトレーター(滴定)、その他は分光光度計(比色測定)

3 結果

1)PETボトルからの蒸留水、水道水への元素の溶出についての定量分析値を表1に結果を示す。

2)実験終了時までのK、Na、Ca、Mgの4回の定量分析結果を表2に示す。

3)実験終了時の全定量分析値を表3に示す。

4 市販の水について

 現在、健康食品ブームもあって、かなりの種類の「おいしい水」、「天然水」、「自然水」が売られている。この市販の水と実験結果を比較するために、5商品ほどパッケージやパンフレットからデータを集めた。(表4

5 考察

1)PETボトルについて
 蒸留水だけを用いた試料の溶出したとされる元素は、ごく微量である。これは測定の際の誤差として理解した。(右図)
 また、水道水だけを用いた試料は、0~150日を通じて、ほとんど変動していない。容器は内部の試料に影響を与えず、実験の容器としては適切であると考えられる。
ペットボトルから水への元素溶出結果

2)振とうによる元素溶出量の増加について
 全5種類の岩石において、蒸留水中に静置した試料より、蒸留水中で振とうした試料のほうが、調べた4元素の溶出量が増加していた。
 静置した試料は容器中で分級の良い状態で沈澱し、水-岩石の反応がほぼ定常状態となっていたと思われる。この試料を振とうすることにより、定常状態が破れ、大きな粒子の周りに溶液の濃度差が生じ、さらに元素が溶解したと考えられる。
 なおこの振とうは毎回数秒間であった。自然の状態でこの実験に似た状況は無いかも知れないが、ちょっとした地下構造の変動によっても、源泉などから溶出する元素の量にはかなりの変動が現れるのではないかと予測される。市販のナチュラルミネラルウォーター「大清水」パンフレットによると、新清水トンネルの湧水では、全硬度は最大2倍の変動を示すようである。
花崗岩から水への元素溶出結果

安山岩から水への元素溶出結果 河原の石から水への元素溶出結果 石灰岩から水への元素溶出結果 大谷石から水への元素溶出結果

3)元素の吸着について
 水道水を用いた実験においては、石灰岩を除いて実験の初期(最大で53日まで)に元素の吸着が確認された。
 この現象は、反応性に富む微細な岩石の粉末が、H2O、Ca、Mgなどの元素を取り込んで、粘土鉱物を形成するためと考えられる。しかしながら、X線回折による定性分析では、実験前と実験後においての顕著な違いは認められなかった。
 この現象は特に凝灰岩において顕著に認められた。水道水を用いた試料では、もともと18ppm以上存在したCaが、53日後の測定の際にはまったく存在しなかった。
花崗岩から水道水などへの元素溶出結果

安山岩から水道水などへの元素溶出結果 河原の石から水道水などへの元素溶出結果 石灰岩から水道水などへの元素溶出結果 大谷石から水道水などへの元素溶出結果

4)岩石を混合することについて
 石灰岩など多量のCaを溶出する岩石でも、凝灰岩と混合することによって、その水中にはCaが存在しない状態になることが確認された。これは凝灰岩の粘土鉱物形成作用で説明されるだろう。
 また、2種類の岩石100gずつを混合した試料の元素の溶出量は、それぞれの岩石を200g用いた試料の中間の値を示すのではないかと予想していた。しかし実験によると、用いた岩石より小さな値や大きな値を示すことがあった。
 凝灰岩を除き、Caは4元素中最も多量に溶出しているのだが、2種類の岩石を混合することにより、さらに多量のCaが溶出する現象が10試料中5試料に確認された(図中の太い黄色の線)。これはCaを特異的に吸着する凝灰岩を除いた場合、6試料中5試料ということになる。
 この原因は不明だが、興味深い現象であるといえる。
花崗岩と安山岩の混合物から水道水などへの元素溶出結果 花崗岩と河原の石の混合物から水道水などへの元素溶出結果 花崗岩と石灰岩の混合物から水道水などへの元素溶出結果 花崗岩と大谷石の混合物から水道水などへの元素溶出結果 安山岩と河原の石の混合物から水道水などへの元素溶出結果 安山岩と石灰岩の混合物から水道水などへの元素溶出結果 安山岩と大谷石の混合物から水道水などへの元素溶出結果 河原の石と石灰岩の混合物から水道水などへの元素溶出結果 河原の石と大谷石の混合物から水道水などへの元素溶出結果 石灰岩と大谷石の混合物から水道水などへの元素溶出結果

5)水の着色について
 凝灰岩を用いた試料は、かなりはっきりと緑色に変色した。これは溶出したFeイオンのためであると考えられる。

6)市販の水と実験結果の比較
 「六甲のおいしい水」は「花崗岩層に磨かれた」とある。岩石を混合した試料中にはこの製品に似ている試料も存在したが、岩石1種類のみを用いた試料中では、1番近似しているのは花崗岩であるといえる。まさに花崗岩帯を通った水といえる。
 「volvic」は花崗岩と安山岩を混合した試料に1番近かった。イラストに描かれている主な岩石は、花崗岩、塩基性火山岩だったので、実験結果とよく一致しているといえる。
 「山崎の天然水」の産地はパッケージより大阪府三島郡島本町である。この地域は、砂岩、泥岩、及びその互層、チャート、塩基性火山岩、及び石灰岩である。(1/20万地質図「京都及大阪」より)Caがかなり高いのはさまざまな岩石が関係しているためかと考えられる。
 市販されているナチュラルミネラルウォーターは、自然の状態において、ほぼ完全に元素が飽和したものであるといえるだろう。
ナチュラルミネラルウォーター中の溶存元素と、実験結果を比較したグラフ

6 結論

 岩石の粉末と蒸留水を混合した試料は、振とうすることにより、より多量の元素を水中に溶出する。
 岩石の粉末が2次鉱物である粘土鉱物を生成する際、Ca、Mgなどの元素を、水中から取り込む。
 多種類の岩石を混合した試料では、Caの溶出量が増加するなど、1種類の岩石を用いた試料とは異なる傾向を示す。
 Feが多量に溶出すると、水が緑色に変色する。
 市販されているナチュラルミネラルウォーターの溶存元素量は、純粋な水に岩石から元素が溶出して飽和した状態に非常に近い。

7 謝辞

 本研究において、助言、ご協力下さいました、東京学芸大学地学教室の岡村三郎教官、本間久英教官、中田正隆教官、猪郷久治教官に、お礼申し上げます。

8 参考文献

 茅原一也 小松正幸 島津光夫 久保田喜裕 塩川 智(1981)「地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)」地質調査所
 地質調査所編(1986)「京都及大阪(20万分の1地質図幅)」地質調査所


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